大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成3年(ネ)4358号 判決

控訴人

瀬川馨

右訴訟代理人弁護士

大久保博

被控訴人

藤井順子

右訴訟代理人弁護士

吉田健

主文

一  原判決中控訴人に関する部分を次のとおり変更する。

1  控訴人は被控訴人に対し、金四二五万九〇三八円及び内金三八五万九〇三八円に対する昭和六二年一〇月八日から、内金四〇万円に対する平成二年五月一九日からそれぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被控訴人の控訴人に対するその余の請求を棄却する。

二  訴訟費用は、第一、二審を通じ、控訴人と被控訴人との間に生じた分を三分し、その一を控訴人の、その余を被控訴人の各負担とする。

三  この判決の一項1は、仮に執行することができる。

事実

一  当事者の求めた裁判

1  控訴人

原判決中控訴人の敗訴部分を取り消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

2  被控訴人

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

二  当事者の主張

当事者の主張は、原判決事実摘示のとおりである。

三  証拠関係〈省略〉

理由

一事故の発生及び控訴人の責任

この点に対する当裁判所の判断は、次に記載するほか、原判決理由一項及び二項1(九枚目表二行目から一一枚目裏七行目まで)に記載のとおりである。

1  原判決一〇枚目裏二行目の「道路標識」を「道路標示」に改める。

2  同一一枚目裏四行目の末尾に、次のとおり加える。

「控訴人は、本件交差点においては控訴人車に優先通行権があるから、被控訴人の過失割合を一〇分の六とみるのが相当であると主張するところ、前記認定のとおり被控訴人車の進行路上には一時停止の道路標示があるが(控訴人車の進行路上には停止線の道路標示があり、また横断歩道が設けられている。)、これのみでは交差点における優先関係を決定する根拠となるものと認められず、また、前掲乙第一、二号証によると、控訴人車の進行道路の方が被控訴人車の進行道路に比べその幅員が明らかに広いとは認められないから、控訴人車に優先通行権があるとは認められない。そして、前記認定のように、被控訴人は、本件交差点において道路標示に従って一時停止し、徐行して本件交差点に進入したのに対し、控訴人は、見通しのきかない交差点に徐行ないし減速することなく、かつ交差点の直前に至るまでカーブミラーを見ることもしないで本件交差点に進入したものであるから、両者の過失割合を前記のとおり控訴人六、被控訴人四とするのが相当である。」

二損害

損害に関する当裁判所の判断は、次に記載するほか、原判決理由三項(一二枚目裏一行目から一七枚目表五行目まで)に記載のとおりである。

1  原判決一三枚目表八行目の「程度の」の次に、「労働能力喪失率八パーセント(喪失期間一〇年間)相当の」を加える。

2  同一三枚目表八行目と九行目の間に、次のとおり加える。

「控訴人は、右後遺障害の内容・程度及び因果関係を争うので検討する。前掲各証拠、成立に争いのない甲第一、第三号証、第一五号証、乙第六号証によると、被控訴人は、本件事故により生じた右鎖骨骨折等のため入院して、昭和六二年一〇月一三日に鎖骨骨折接合のための手術を受け、同月二一日ギプスで患部を固定し、同月二四日退院し、同年一一月一二日にはギプスを除去して代わりに鎖骨バンドを着け、昭和六三年一月一六日には鎖骨バンドも除去したこと、右の時点で骨折部分は癒合していたが、右肩関節の拘縮があったこと、同日から同年六月一〇日の症状固定時まで頻繁に通院してリハビリテーション等に努めたが、結局、右肩関節痛及び右肩関節拘縮の後遺障害が残り、関節の運動制限が残ったこと、被控訴人はその後も通院して治療を受けたが、症状に特段の変化はなかったことが認められる。そうすると、被控訴人は、右肩関節そのものを骨折したものではなく、骨折した鎖骨は癒合したと認められるけれども、相当期間の治療にもかかわらず前記の障害が残ったものであり、右障害は医師により客観的に確認されているのであるから、右後遺障害を本件事故と相当因果関係にあるものと認めるべきである。」

3  同一三枚目表末行の「甲第四、五号証、」の次に「乙第七号証、」を加える。

4  同一四枚目表四行目から一五枚目表一〇行目までを次のように改める。

「(四) 入院付添費

前掲甲第三号証及び被控訴人本人の供述によると、被控訴人は入院中は右肩をギプスで固定し右腕を動かすことができなかったこと、このためもあって、入院中被控訴人の実母に付添看護をしてもらったことが認められる。しかしながら、前掲甲第三号証、成立に争いのない乙第六号証に照らすと、右入院中被控訴人について付添看護を要したものとは認めがたいから、入院付添費を本件事故と相当因果関係にあるものと認めることはできない。

(五) 通院付添費及び家事担当費

(通院付添費)

前記認定のとおり、被控訴人はその夫運転の自動車に同乗して通院したことが認められる。そして、被控訴人は、右夫の付添費用及び付添交通費を請求するが、本件において、被控訴人の通院に付添を要したとの点については、的確な証拠がない。また、前記のとおり、被控訴人は自らの通院交通費をバス、電車を乗り継いで通院した場合と同じ程度の費用を要したとして請求しているのであるから、これに加えて、運転を担当した夫の付添費(日当相当分)や交通費(被控訴人は夫がバス、電車を利用した場合の料金として請求している。)を請求すべきものとは認められない。

(家事担当費)

被控訴人本人の供述によると、被控訴人は退院後も当分の間は実母に家庭での家事労働をしてもらったことが認められる。しかし、後記のとおり、被控訴人につき治療期間中の休業損害を認容するので、これに加えて実母の家事労働の費用を損害として控訴人に負担させるのは相当でない。

(六) 付添人の交通費

被控訴人は、被控訴人の入院中に被控訴人の実母が付添のために病院に通った交通費を請求するが、前記のとおり、被控訴人の入院中に付添看護を要したことについては、これを認めるべき証拠がないから、付添のための交通費についても本件事故による損害とは認めがたい。なお、夫の交通費を認めることができないのは、(五)記載のとおりである。」

三損害賠償額

以上の金額を合計すると、被控訴人の被った損害額は七六四万二〇八〇円となるので、前記説示の過失割合に従って過失相殺し、四〇パーセントを減額した四五八万五二四八円が控訴人の負担すべき損害賠償額となる。

そして、控訴人の弁済の抗弁について被控訴人は明らかに争わないから、これを自白したものとみなし、控訴人が支払った被控訴人の治療費七二万六二一〇円を右賠償額から控除すると、残賠償債務額は三八五万九〇三八円となる。

また、本件事案の難易度、前記認容額等を勘案すると、弁護士費用は四〇万円が相当である。

したがって、控訴人は、被控訴人に対し、損害賠償金四二五万九〇三八円及び弁護士費用を除く内金三八五万九〇三八円に対する本件事故発生の翌日である昭和六二年一〇月八日から、内弁護士費用金四〇万円に対する訴状送達日の翌日である平成二年五月一九日から、それぞれ支払済みまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払義務がある。

被控訴人の控訴人に対する本件請求は右の限度で理由があるが、その余は失当である。

四結論

よって、右と異なる原判決を変更することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官佐藤繁 裁判官岩井俊 裁判官坂井満)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例